むかし上山田に住んでいた力持ちの大男『鬼源兵衛』。
その源兵衛には、まだまだいろんな伝説が残っています。
力持ちの英雄として、村人たちから持ち上げられて、上山田のヒーローだと讃えられていた源兵衛、最初のうちは人のためになるよい行いをして尊敬されていましたが、だんだんと怠けるようになり、乱暴になって、お酒とばくちに溺れるようになっていきました。
そうなると、力自慢なだけに、怖くて誰も文句を言えません。
村人たちも次第に源兵衛との付き合いを避けるようになっていきました。
しかし源兵衛のお母さんは、とても心の優しい立派な人でした。
何とかして『鬼源兵衛』などとみんなから恐れられている我が子を、もとの優しくて頼りがいのある息子に戻そうと、毎晩のように薬師峠の薬師如来にお願いに通っていました。
そんなことは知らない源兵衛、この日もいつものように関原で酒とばくちをするために、薬師峠に差し掛かりました。
すると、源兵衛の前にお母さんが急に現れて、
「ばくちなんかやめて、さあ、お母さんと一緒に家に帰ろう」
と言ってきました。
しかし源兵衛は、
『こんな夜中にこんな場所に、母さんが来るわけがない。
これはきっと化け物の仕業に違いないぞ。
よし、俺が逆にやっつけてやる』
と、腰の刀を抜いて、お母さんに化けた化け物を切りつけました。
悲鳴とともに暗闇に消えた化け物を後にして、源兵衛は悠々と関原に向かいましたが、何となく気持ちはスッキリしません。
翌朝、恐るおそる家に帰ってみると、昨夜切り捨てたはずのお母さんが、
「あまり夜更かしすると体に毒だよ」
と優しく迎えてくれました。
「やはりあれは化け物の仕業だったんだな」
と、その正体を見に薬師峠に戻ってみると、そこには袈裟懸けに真っ二つになって転がった薬師さまの像がありました。
「そうか、昨日のは、薬師さまがお母さんに化けて俺を引き留めてくださったんだ。
それなのに俺は、なんて罰当たりなことをしてしまったんだ…」
薬師さまの優しさと、お母さんへの裏切りと、二重の申し訳なさに源兵衛はその場に泣き崩れ、その後はぱったりと酒とばくちをやめ、立派な人になったということです。



