むかしむかし、いまの内郷小学校の近くに、永安寺というお寺があって、そのお寺の奥に、椿の木が生い茂った沢がありました。
たくさん生えている木の中に、ひときわ大きな桜の木が一本、どっしりと構えて、村の様子を見守ってくれていました。
根元にはとても大きな穴が開いていて、その穴には、昔から「蛇々九郎」という大蛇が住んでいました。
大蛇とはいっても蛇々九郎は、村人に会うときにはいつも「きれいな娘の姿」に変身するようにしていたし、いつも優しく親切な蛇々九郎は、大人にも子どもにも慕われていました。
でも村に悪人が来たときには、大蛇の姿になって悪人を追い払ってくれたりして、村の守り神のようだったのです。
そんなふうに、村人と仲良く暮らしていた蛇々九郎は、毎日気楽に、桜の木の大穴でお昼寝をしていました。
ある日のこと、村にひとりの木こりがやってきました。
そして、蛇々九郎の桜の木を見つけ、大きなのこぎりで「ズイコ、ズイコ」と切り始めたのです。
しばらくすると、のこぎりに血がついているのに気が付いたけれど、「へんだなあ」と思ったくらいで、そのまま切り続けました。
そのころ桜の木の大穴でお昼寝をしていた蛇々九郎は、夢の中で、なんだかしっぽがヒリヒリするような熱いような気がして、目を覚ましました。
ボーっとする目でしっぽを見てみると、なんと途中で切られているではありませんか!
驚いた蛇々九郎は、「誰がこんなことを!」とかま首を持ち上げて怒って、穴から飛び出しました。
仕事をしている途中で、突然見上げるような大蛇が現れて睨みつけられ、木こりはもうすっかり固まってしまい、ショックで気絶してしまいました。そして三日三晩うなされ続け、とうとう苦しみながら死んでしまいました。
さて、住む場所を奪われた蛇々九郎は、困って永安寺の和尚さんに相談に行きました。
そして、
「和島の妙法寺にある椿の森には、私と同じような大蛇がいると聞きます。
ただ、とても遠い場所なので、娘の姿ではとても歩いていけません。
大蛇の姿で村を出ていきますが、村の人たちを驚かせたくありません。
どうか、よろしくお願いします」
涙を流してお願いする姿に、和尚さんも
「わかったよ。あとのことは任せて、安心して旅立ちなさい」
と、精一杯励ましました。
いよいよお別れの日、村人たちは朝早くにお寺の門の前に、蛇々九郎を見送りに集まりました。
立ち込めた霧の中に現れた、大蛇の姿の蛇々九郎に、和尚さんから聞いて心の準備をしていた村人たちも、その大きさに息をのんだのでした。
目にいっぱい涙をためて、村人たちにお辞儀をし、蛇々九郎は大きなからだをずるずると動かして出発しました。
でも途中まで来たところで、どうしても、しっぽを切られて痛かったこと、そのせいで大好きな村から出ていかなくてはいけなくなったこと、今までの楽しい思い出…、いろんな思いがこみ上げてきて、近くの小さな山をしっぽで巻いて引っ張りだしましたが、甲戸の多岐神社のあたりで力尽きてしまい、そこに置き去りにしました。
それが、まるで別の山ができたようになったので、そのあたりを「別山」と呼ぶようになったのです。
さらに椿の森を目指して進む蛇々九郎。
途中の山を越えたら、のどが渇いて水が飲みたくなりました。
まわりを見渡すと、近くに池があります。
勢いよく、その水を全部飲み干した蛇々九郎は、元気が出てきて、思わずブルブルっと身震いをしました。
すると背中についていた土が下に落ち、一坪くらいの大きさになりました。
それでこの辺りを『市ノ坪』と呼ぶようになったのです。
そうして、蛇々九郎は無事に椿の森へ到着し、仲間と仲良く暮らしたということです。




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ナカノホチャ (月曜日, 27 11月 2023 21:11)
なかなか、優しい親切な大蛇は、あまり聞いたことがありません。じーんとするお話ですね。別山と市の坪の成り立ちが素敵です。
西山の魅力発掘団 (火曜日, 28 11月 2023 06:47)
ナカノホチャさま
コメントありがとうございます!
西山に伝わる民話の中で一番好きなこのお話を、気に入ってくださってありがとうございます!
大蛇なのに心優しい蛇々九郎、去っていくときの悲しみ、いじらしさ…。
子どもたちへも、土地の成り立ちとともに伝えていきたいです。